第一章 ザルバリアの現実

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 北の大国。ザルバリア王国。  そこは極寒の大地に覆われた、人間が生きるのが大陸で最も過酷な場所だと言われている。  寒さだけが問題ではない。  “星屑の聖座”。その末端とも呼べる猟兵が言うように、この国の政治家は腐っている。  アリア・ライドラールはこれを変えたくて、彼らの腐敗を止めたくて、貴族としての矜持を取り戻してほしくて、日夜国中を走り回っているのだけど。 「アリア。貴女はいったい何をしているのッ?」  長方形のテーブルが真ん中に置かれた、ライドラール家の応接間。築き上げてきた地位と名声が財を産み出し、貴族でも有数の豪邸を作り上げた。  向かい合う齢五十前の母親が怒りまかせにテーブルを叩く。侍女の用意した紅茶がその弾みでテーブルに散乱した。 「ライドラール家の次期当主が猟兵と戦うなんて危険すぎるわ! もしも貴女の身に何かあればどうするの!」 「心配しすぎですよ、お母様。猟兵といっても、強いものは一握り。幼い頃から鍛えられてきた私には何てこともーー」 「そういうことを言っているのではないッ!」  再びテーブルが揺れる。 「アリア。貴女が強いのは解ってるわ。けれど、猟兵退治なんて、そんなのは軍人に任せればいいの。彼らはそのためにいるのだから」 「しかし、お母様。ザルバリアの軍は、二年前の大戦でかなりの損傷を受けています。おそらく、猟兵団への対応が間に合っていないのでしょう」
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