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一刀の歯軋りする音がアリアにまで届く。こめかみに青筋が浮き出ていることからも、彼を取り巻く感情が憤怒なのは明らか。
――……ひ、一先ず冷静にさせるべきでしょうか。それとも……。
「早よう食い物出さんかい、儂の気は長くないぞ」
「うるせぇなぁ。解ってるって。けど、こんな雪景色の中で飯食うわけにもいかねぇだろ」
「ぐぬぬぬ、近くに町はあるんじゃろな?」
「さぁな。アリア、この先に町はあるのか?」
ファーと一刀の視線を浴びるアリアは、彼らの期待を断ることになると知りつつも、首を横に振った。
「この先はユルーラ丘陵。集落を作れるような場所ではありません。さっきの町が最寄りの休憩所です」
「マジか……。じゃあ、アレだな。我慢しろ」
「嫌じゃ! お腹減った、酒飲みたい! そもそもどうしてお前様がこんな女に付き合う必要があるんじゃ!?」
ビシッと突き付けられた童女の人差し指を眺めながら、アリアも同じことを思った。
今からすることはこの国の事だ。極東の国とは何の関連性も見いだせない。一刀がわざわざ出向く必要なんてどこにも――。
「必要はないけどよ。別にいいだろ? 美人な女と雪景色を散歩するぐらい。日頃お前のワガママに付き合わされている分のご褒美だと思えば――痛い痛い髪の毛引っ張んな抜けるってズボッて抜けちゃう禿げるっておいマジでやめろ!!」
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