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叫ぶ一刀と違い、背中に張り付いている少女は嬉々とした顔のまま、
「この儂を蔑ろにしてくれた礼じゃ。浮気性のお前様のせいでどれだけこの無垢な心が傷付いたと思うておる。このまま禿げて儂に笑われろ!」
「アホか! テメェが無垢な心とか笑わせんな!」
「おやおや、お前様はよほど儂の仕打ちを食らいたいのか? よかろう。ならば存分に禿げさせてやろうぞ!」
「上等だコラ! テメェを背中から引き剥がして、雪の上でコチョコチョの刑にしてやるよ!」
そう罵りあい、一刀とファーは変な格好で取っ組み合いを始めた。少女は身体をくねらせながら髪を引き摺り、青年は背中に腕を回している。
それらを眺めていると、
「……………――――」
自然と口から笑い声が出た。
こんな状況なのに。自分達は今、最悪とも言える教団のアジトへ足を踏み入れようとしているのに。
笑ってしまう。
――どうしてなのでしょう……。
一刀たちといるのが、こんなにも楽しい。
「……おい、ファー」
「何じゃ」
「……オレたち、笑われてるぞ?」
「何故か拍子抜けした気分じゃ。あの娘、頭のネジがどこか緩んでいるのではないか?」
「いや、お前じゃあるまいし」
「引っ張るぞ、髪を」
「イテテテテ引っ張ってる引っ張ってる!!」
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