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阿鼻叫喚の地獄絵図を背景にして、シェリアは両手に身の丈を超す一対の大剣を握って立ち尽くしていた。
剣身にこびりついた血肉を見れば、彼女の行ってきた所業を何も語らずとも思い起こせるだろう。
「出てきなさい、ゼクセル」
地を這うような低い声でシェリアは言った。彼女の正体を知らない知人が聞けば、驚愕してしまいそうな声音である。
殺意と敵意を凝縮させた台詞に、
「問いを一つ、まだ生きていたのか」
男の声が応えた。
姿は見えないが、シェリアは容易にゼクセルの気配を感じ取った。近くにいる。憎い男が、すぐ近くに。
団長専用の研究所はアジトの地下深くにあった。地面の下とも思えない白い壁、白い床、白い器具。清潔にされ、塵一つ見つけられない。
まだ火の手は及んでいない。しかし、悲鳴や叫び声は様々な物体を反響して、研究所にまで伝わってきている。
――懐かしいわね。
BGMには、ちょうど良い。
「勝手に殺さないでくれる? アンタをぶち殺すまで私が死ぬ筈無いでしょうが」
「嘆息を一つ、貴様の顔などもう見たくもないと思っていたんだがな」
「それは残念ね」
「“失敗作”と会話するほど不愉快になるものはないな」
「その失敗作に今からぶち殺される気分はどう? 教えてくれると後で酒の肴に出来るんだけど」
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