5217人が本棚に入れています
本棚に追加
嗤った二十歳の顔はどこまでも空虚に狂喜を孕んでいた。
愛想笑いとは次元の違う、少女の微笑みなんて話にならない、ただ見るだけで暴虐を許してしまいそうになる笑顔。
シェリアは嗤う。
ただそこにいるだけで、彼女の歓喜は爆発する。まるで片想いの男性と、夜の部屋で見つめあっているかのように。
さぁ、シェリア。
言い聞かせる。
己の心に、体躯に、血液に刻み付ける。
貴女の仇がそこにいるわ、と。
「問いを一つ、貴様の妹は元気か?」
「ええ、勿論。私の最愛の妹は今も元気よ。会いたいの? 生きたまま会いたいのかもしれないけど、まぁ無理ね。私が殺すから」
「嘆息を一つ、いつまで経っても落ち着きの無い失敗作だな、貴様は」
大人の男性特有の低い声音が研究所に響いた。嘲笑う台詞も今日はどこか蛇のようにスルスルと耳朶の奥へ入ってくる。
昔は嫌悪していたのに。
だから、台詞を理解できなかったのに。
今は違う。違っている。
シェリアは身体に巻き付く蛇の感覚に酔いしれながら、手に馴染む柄をキツく握り締めた。
「――ええ、私は失敗作よ。なら聞くわ。姉さんとシェリー、どっちが成功体なんだっけ?」
「答えを一つ、奴らはそれぞれ別々に天使へ昇華した者たちだ。較べるのも烏滸がましい」
恍惚の声に、シェリアは感想を口にした。
「あっそ。良かったわね」
最初のコメントを投稿しよう!