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ジッと見つめてくるハヤテに、俺は溜め息を漏らした
そういや、俺の嘘がこいつに通用したことなんて一度もなかったな
「…よく分かったな」
「分かるよ、だって僕は兄さんの弟だもん」
そうハヤテはニコリと笑う
「そう…だな、それに嘘なんて器用な真似、俺にできる訳ねぇや」
「ハハッ、それで一体どうしたの?」
俺は黙って書き置きを差し出した
ハヤテはそれを受け取って読みはじめる
読んでいくにつれ、ハヤテの表情が引き攣っていった
「え…これって、どういう事…」
ハヤテは信じられないような表情で呟く
「つまり、俺達はあの両親に売られたって訳だ」
「そんなっ!?」
そう述べる俺にハヤテは涙目になってこちらを見上げる
小学生であるハヤテにはやはりショックが強すぎたようだ
分かっていたことだが、改めてハヤテの様子を見ると心に罪悪感が重くのしかかる
「に…兄さん、僕たちこれからどうなっちゃうのかなぁ」
涙声で問い掛けてくるハヤテ、俺はその頭に手を乗せた
「大丈夫だ、俺が何とかしてやるから」
そうだ、こいつだけは何としても助けてやる
それが家族であり、兄貴である俺の役目だ
よしっ、と俺は部屋中を見渡す
部屋の隅にある箪笥の引き出しを取り外し、その裏に張り付けてあったへそくりを見つけ、安堵の息を吐いた
「よかった、これは見つからなかったか」
中を確認し、お札が入っているのを確かめ、それをポケットに忍ばせた
「ハヤテ、必要な物を全部纏めてこい」
「うんっ」
急いで部屋の奥へと走っていくハヤテを見送る
俺達を売った、とあの書き置きには書かれていた
つまり、そう遠くない内にそっちの道の奴らがこの家に来る
なら此処に留まっているのは危険だろう
「兄さんっ!準備できたよ!!」
「…よし、ならさっさと―――っ!」
ドカドカと荒々しい複数の足音がこちらに向かってくる
俺達が住んでいるボロボロのアパートは壁が薄い、少し大きな声をあげると余裕で隣の部屋の人に聞こえてしまう程だ
なので、ここの住人はそういう騒音に気を使っている
なので、このように騒音を気にしないような足音を鳴らすのは、初めてこのアパートを訪れた者に限られるのだ
この状況で騒音を鳴らし、尚且つ複数の人物といえば、思い当たるのは一つしかなかった
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