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「…何とか逃げて来れたな」
あの後、出来るだけ遠くに逃げようと走り続けて、我が家より大分離れた公園へとたどり着いた
背負っていたハヤテを下ろし、一息ついた
「…兄さん、大丈夫?」
「あぁ」
俺のコートの端を掴みながら、心配げに見上げてくるハヤテに頷き返す
考えるのはこれからの事
あのタイプのヤクザは取り立てると言ったら警察だろうと取り立てるタイプ…
しかも三億…
何があろうと見逃す訳がない
この三億の借金をどうにかしなければ、俺達は永遠に逃げ続けることになるだろう
そんなのはごめんだった
かといって仕事はクビになった俺が手っ取り早く三億作るには…
それこそ強盗か身代金目的の誘拐か…
頼る親戚はいないし、友達は俺の性格のせいで出来ずじまい
というか、この寒空の下、野宿したら俺はともかくハヤテは凍死してしまう
極限まで追い詰められた思考に影が過ぎった
こうなりゃもう悪い人間になるか!?
あんな親やヤクザに命狙われてんだ…
強盗だろうが誘拐だろうが…自分たちが助かるためなら!!
「兄さん………」
寒さに呻くハヤテの声にはっと我にかえった
俺は今…何を考えていた
ただ無心に俺は右腕を振り上げ、自分の右頬を思い切り殴りつけた
「…っ!!」
「に…兄さん!?」
鈍い音が響き、同時にハヤテの驚く声があがった
寒さも相まってジンジンと右頬が痛みを訴えてくる
「一体どうしたのさ!?」
「いや…ちょっとボケた頭を治しただけだ」
そう言い、はっきりとした意識の中考える
そうだ、ここでそんなことをしちまったらハヤテにいらん重荷を背負わせてしまう
それに俺達を売った親と同類になるつもりなんてない
「温かい飲み物でも飲んで落ち着くか」
「ま…待ってよ兄さん!!」
慌ててついて来るハヤテの声を聞きながら、俺たちは公園へと入っていった
公園内唯一の自販機を設置している休憩所に向かっている最中、唐突に隣のハヤテが前方を指差した
「兄さん、あそこ…」
その声につられ、視線を前方の自販機前へと向ける
「………」
そこには所在無さげに佇んでいる少女がいた
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