44人が本棚に入れています
本棚に追加
「うむ、なんでもいいぞ…言ってみろ」
機嫌良く言う私に、男は黙って首を振る
『別に礼が欲しくて助けた訳じゃねぇんだけどな』
「そう言うな、礼をしなくては私の気がすまん」
渋る男に私は根気よく問うてみる
その最中、こんな寒い中で考えている必要もないかと気付いた
「取り敢えず私の家に向かうぞ、お前も寒いだろ」
『だから、別に…』
「兄さん、諦めた方がいいかもしれないよ?あの子強引そうだし、兄さんも寒いでしょ?」
『…寒かねぇよ』
後ろから二人が会話しているのが聞こえるが、それに構わずケータイを取り出そうとして気付いた
「しまった、ケータイを忘れてきてしまったか」
私の呟きに気付いたのか、男は溜め息を吐いた
『仕方ねぇ、お前ん家の番号を教えろ、そこら辺の公衆電話からお前の家にかけるから』
「いや、悪いし…私からかけるよ」
『いいから待ってろっての、俺が行ってくるから』
私がどうしようか迷っていると、ハヤテと呼ばれていた少年がこっそり私に耳打ちしてきた
「此処は兄さんに任せてあげてくれないかな?兄さんは君が寒いと思って気を使ってあげてるんだ」
「そうなのか…」
「兄さんは不器用だから、分かり難いんだよ、でも本当は凄く優しい人なんだ、ちょっと子供っぽいけどね」
ハヤテは誇らしげに兄さんと呼ぶ男の事を話す
確かに…優しくなければこんな寒い中、自分のコートを貸したりなんかはできないだろう
そう気付くと確かにこの男はかなりのお人よしなのだと気付いた
「…分かった、じゃあお願いする、番号は―――――――」
口答で番号を伝えて、男が走っていくのを眺めながら、私はハヤテがくれた缶コーヒーを開けて、一口飲んだ
その安っぽい温かさを堪能しながら、ふとポケットの中に手を入れると紙のような物が手に当たった
(なんだ、これ…【隼人君&ハヤテ君へ】…ハヤテはこいつの事だから、隼人というのがあいつの名前かな)
「隼人…か」
あの男を思い浮かべると、胸がドキドキしだすのを感じた
(またドキドキが始まっちゃった、でも…強くて口は悪いけど優しくて…かっこいい…)
気恥ずかしさをごまかすように頭を振ると、改めてその手紙を眺める
隣を見るとハヤテの姿がいつの間にかなかった
慌てて周りを探そうと歩きだした、辺りを見渡す私の背後で忍び寄る影に気付かずに………
最初のコメントを投稿しよう!