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『三千院…どっかで聞いた名前だな』
あの公園から公衆電話へと向かう為に、一時的に離れた後、俺は電話番号を記した紙を片手に走り回っていた
番号の他にあいつの名前も教えてもらったんだが、その名前が妙に頭に残る
確かに何処かで聞いた名前なんだが…
首を捻りながら、辺りに公衆電話が無いか探す
しかし、どうにも見つからない
『ったく!どうでもいい時は見つかる癖に、欲しい時は見つからねぇのかよっ』
荒々しく地面を蹴りながら捜索を続けるが一向に見つからなかった
『こんなときにケータイがあればな………今更過ぎんだろ』
自嘲する俺の身体を風が吹き付ける
その寒さにうんざりしながら、少しでも暖まろうと手で身体を摩る
しかし、あまり意味がなかった
溜め息を吐き、改めて辺りを見渡す
その視界の端に雪に白く隠された一般的な公衆電話があった
『おっ!やっと見つけたぜ!!』
喜び勇んで公衆電話の方へと駆け始める
あの個室に入ればある程度寒さも和らぐに違いない
寒さから逃げることが出来るのが凄く嬉しかったんだろう、その時の俺は余りにも油断し過ぎていた
だから、公衆電話がある角から自転車が走ってくるのに気付かなかったのだ
『なっ!?』
「えっ!?」
俺が角を抜けたのと、その自転車が突っ込んできたのは同時だった
『―――っおらぁ!!』
瞬間、俺は迫り来る自転車のハンドルに手を当て、そこを支点に側転
乗っていた女の頭上を飛び越え、着地する
慌てて振り向くと、バランスを崩し、宙に投げ出される女の身体
その表情は今自分がどんな状態なのか理解できていないのだろう
ア然としたまま、その身体が地面に撃墜する――――――
『―――っ!!!』
間際、俺は再びリミッターを外し、宙を舞っていた女の身体を地面に着く前に抱き抱えた
直後俺の周りの感覚は通常に戻り、スリップした自転車がガードレールにぶつかる
腕の中には眼をパチクリさせている女がいる
怪我をしている様子も見られない事に安堵した
『おい、大丈夫か?』
尋ねるように腕を揺らし、女に声を掛ける
その視線は一度俺に向くとジッと見つめてくる
そのまま数秒いると、急にボンッとした音が聞こえるかの如く、その表情を真っ赤に染め上げた
「だっ大丈夫でしゅっ!!!」
それが、この女との奇妙な出会いだった
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