始まり

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上司の言葉の意味を理解するのに数秒の時を要した 「―――渡したって…あの親に給料全部か!?」 「そりゃ君は高校生だったのだから、親に渡すのは当然だろう?」 何言ってるんだというかのように嘆息する上司に対し、思わず殴りかかりそうになるのを耐えて、言葉を吐き出す 「あの親に17万も渡したら、全部パチスロに消えるだろうが!!」 「何を馬鹿な…そんな親がどこに…」 こちらの渾身の叫びにやれやれと首を振る上司に背を向け、急いで出口へと向かう 「いるから年齢偽って俺がバイトしてんだ!!」 最後に吐き捨てるかのように言い放ち、壁に掛けてあったコートを走りながら羽織り、我が家へと向かう 「くそっ!家にはもう…一円だって貯金がねぇってのに!!」 だが…そんなことはあの親も分かっている筈 なのに、何だって嫌な予感しかしねぇ!! バンッ!!と乱暴に玄関の扉を開け放ち、居間へと向かう 「親父!お袋!俺の給料――――!!」 開け放った先にはちゃぶ台の上に置かれている給料袋 それを見た途端、安堵の息が零れた 「よ…良かった、まだ使われて―――――」 なかった、と続けようとした俺の視界に入ったのは、ふわりと玄関から吹き込んだ風に舞い上げられる俺の給料袋 そして、その裏に書かれた書き置きだった 【ごっめーん☆パチスロで倍にしようと思ったんだけど失敗しちゃった♥テヘッ―――ママより♥】 震える手で給料袋を拾い上げ、逆さまにする チャリンチャリンと虚しい音が鳴り、中から出てきたのは―――――12円 「12円で……っどうやって年を越せってんだよ…」 目の前が真っ白になり、思わず膝を着く 馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、まさか此処まで終わっていたとは思わなかった 茫然自失に陥っている俺の視界の端に、妙な物が映った 「………また手紙か」 俺の視線の先、我が家の窓に大きく【隼人君&ハヤテ君へ♥クリスマスプレゼントだよ♥↓】と書かれた紙が張り付けてあり、視線を降ろした先には一つの封筒が張り付けてあった もう既に嫌な予感が巨大な風船の如く膨れ上がっているが、仕方なくその封筒を剥がし取った
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