激しさをこの胸に抱いて

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「ねえ、私のメール見て。私の携帯全部見ていいよ」 「…は?」 「だ、か、ら、私の携帯、通話履歴からメールから全部見て」 「…なんで?どういうこと?」 「本当は見たいんでしょ?見ていいよ」 「いや、ちょっと意味分かんない。急にどうした?」 「はい」 私はおもむろに携帯を翔の胸に押し付けた。 しばらく狐に摘まれたような間抜けな表情を浮かべていたが意を決したのか腹を括ったのか、携帯を、開いた。 パンドラの箱だ。 開けちゃいけないもの。 他人が開けちゃいけないもの。 禁忌だろうな。禁忌を破ってる。 見る見る表情が堅くなった。 瞳に怒りが宿っていた。 「やっぱり浮気してるんだな」 「…うん、ごめん。別れる?」 「やだ」 「私と別れて他にいい子見つけなよ地元で」 「…やだ」 「もう色々無理しなくていいよ」 「無理なんてしてない…」 暫く沈黙が続く。 沈黙を破ったのは翔だった。 「ねえ。」 「何、翔」 「別れたくない…お前の男とも別れなくていいよ、ただ俺はお前と一緒にいたい…」 「え?」 「別れた方が俺にとって苦痛だし地獄なんだ」 私は、翔を抱きしめた。 抱き締めながら、翔の頭を撫でながら、翔の背中をさすりながら、嗤った。 こいつは犬というか愚かな蝶だ。 毒花に寄せられる愚かしい蝶。 黒薔薇に色香に魅せられた愚かしい蝶は、黒薔薇の荊に羽根をボロボロにされて身動きが取れなくなっているのにも気づかないのか。 「翔?ねえ翔?」 愚かしい男は、情けないほど泣いて爛れた顔を私に向ける。 「愛してるよ翔」 にこり。 にこりの裏はにやり。 いやらしく。憎たらしく。卑しく嗤うが、翔には美しく映っているだろうか。 爛れた瞳にはどう映っているのか。 「嗚呼、蓮。殺したいほど愛してる」 にやり。にやりと。 淀んだ笑顔。歪んだ口角。 「お好きなように」 fin..
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