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「あんた。アイドルの握手会程度ではしゃぎ過ぎよ」
うずくまる僕に対しそんな言葉を残すと母は今まで括っていた髪の毛を解く。
芋虫のように腹を抱えうずくまっている僕を片目に据え続けた。
「それに朝からそんな大きな声をだしちゃあ、周りに迷惑でしょ? 少しは時間帯と言うものを考えてから叫びなさいよ」
「いや……どの時間帯にしろ叫ぶのは近所迷惑だろ」
やっとの思いで答えた僕の言葉に母は「あん?」なんてメンチを切るものだからその凄みのある表情にビビりながらも「なんでもないです」と答えた。
母の表情が柔らかなものに変わると何事も無かったかのように自身の今までしていた家事の続きへと戻っていった。
僕の喜びを自身の母と手放しに喜ぶ事は出来なかったが、それでも確かに今自分は幸福を感じている。
自分の手にした幸福を分かち合うと言うことは出来なかったけれども、それでも誰かに僕のこの幸運を認めて貰いたいと考えない筈もなく。
「聞いてくれよ池くん! 暁!」
その結果僕はいつも仲良くしている男二人に言ってしまう。その反応はと言うと、これまた僕の予想を反するものだった。
「いやぁ……確かにすげえことであるのは分かるが俺たち……添乗揚羽蝶のが好きだし」
と池くん。
「おい。何時から俺が山那魅麗から年増にくら替えしたって?」
「あん?」
暁の一言で一気にあれほど穏やかに喋っていた池くんの表情が変わる。
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