4人が本棚に入れています
本棚に追加
視線は、逸らされたままだった。鳴海の目はただひたすらに漱石を追っっていた。
でも確かに、笑ったのだ。
唇を微かに緩ませて小さく。ずっと見ていないと見逃してしまうぐらい、ほんの一瞬だけ。
たったそれだけで嬉しかった。それだけで、きっとまた笑い合える希望さえ感じた。
だって俺たちは、同じ産婦人科の隣りの病室で、文字通り生まれた瞬間(とき)から一緒の『幼馴染み』なんだ。
四年前。俺たちは確かに離れた。
俺のせいで、鳴海が怪我をしたからだ。
だから俺からも『離れた』。
でも、ずっと引っ掛かっていた。
何もかも真っ白な病室で泣いて謝っている俺の数十倍悲しそうだった、鳴海の瞳。
俺に何か言い掛けては飲み込まれた、か細い言葉。
一瞬ためらった後、それ以来結局重ねられる事はなかった、白い掌。
俺もあの頃に比べたら大分成長した。周りを見て、狡いけど多少の嘘や我慢とかも身に着けた。つもりだった。
今の俺だったらまた鳴海に向かっていける。
そう思って、今度は絶対守ってみせるって、鳴海をまた笑わせてみせるって、一年間も追い掛けてきたのだ。
「で、これのタイトルは?」
だから、一瞬だが鳴海の笑顔が見られた時は本当に嬉しくて、昔のじゃれあいの流れでついその右手に手を延ばしてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!