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夏中の夏、だった。
太陽が、首筋を暑く焼いていた。
風なんてまったく通らず、蝉は煩いし、見渡す景色は陽炎のように揺らいでいる。
『桜(オウ)ちゃん! 待ってよ』
蝉と一緒に追い掛けて来るあいつの声を背中で聞きながら、長い神社の階段を俺はひたすら上っていた。止めどなく溢れる汗が目に染みて、両足はもう大分疲弊していたが、休むことなくただ前だけを見つめて。
『桜ちゃんっ……! ちょっと待ってよぉ……』
あいつの声がついに震えても、俺は決して振り返ろうとはしなかった。黙々と上を目指して足を動かす。
そう。わざとらしいくらいに、前だけを見て。
あいつは知らなかっただろう。
背中で冷たく突き放していた俺の口許は、こっそり笑っていたなんて、きっと。
あいつが一生懸命に後を追ってくるのが可愛くて、嬉しかったから。
俺はたまにこうして、ガキ丸出しの意地悪をしていたのだ。
『桜ちゃんってばっ! ……うわあ!?』
しかし結局そんな俺の意地悪は、他ならないあいつのお陰で、いつもあっさりと幕を閉じていた。
『なる? ……て、またか、』
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