第一話 再会

2/13
前へ
/13ページ
次へ
     夏中の夏、だった。  太陽が、首筋を暑く焼いていた。 風なんてまったく通らず、蝉は煩いし、見渡す景色は陽炎のように揺らいでいる。 『桜(オウ)ちゃん! 待ってよ』  蝉と一緒に追い掛けて来るあいつの声を背中で聞きながら、長い神社の階段を俺はひたすら上っていた。止めどなく溢れる汗が目に染みて、両足はもう大分疲弊していたが、休むことなくただ前だけを見つめて。 『桜ちゃんっ……! ちょっと待ってよぉ……』  あいつの声がついに震えても、俺は決して振り返ろうとはしなかった。黙々と上を目指して足を動かす。 そう。わざとらしいくらいに、前だけを見て。  あいつは知らなかっただろう。 背中で冷たく突き放していた俺の口許は、こっそり笑っていたなんて、きっと。  あいつが一生懸命に後を追ってくるのが可愛くて、嬉しかったから。 俺はたまにこうして、ガキ丸出しの意地悪をしていたのだ。 『桜ちゃんってばっ! ……うわあ!?』  しかし結局そんな俺の意地悪は、他ならないあいつのお陰で、いつもあっさりと幕を閉じていた。 『なる? ……て、またか、』  
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加