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『なる? ……て、またか、』
あいつは必ずと言っていいほど俺の後を追っている内に、転ぶ。追い付いてきた試しなんてほぼない。
その日も階段の中腹で少し飛び出た石に足を引っ掛けたらしく、へたりこんで俯いていた。
『何やってんだよ、ばか』
『……だって、桜ちゃんが先に行っちゃうから……』
近付いて腰を屈め、覗き込む。あいつは瞳いっぱいに水分を溜めて、俺を見上げてきた。
しかし、決してその水が目の縁から零れることはない。
否、零さない。
あいつはどれだけ派手に転んで至る所を擦りむいたとしても、ギリギリの所で『泣かない』
『……ごめん。悪かったよ。立てるか?』
『…………うん、だいじょうぶ、』
だから俺は結末を分かっていながらも、そんな意地悪を繰り返していたのかも知れない。
『……ほら、なる』
あいつの強さと。
『ありがとう、桜ちゃん』
差し延べた俺の手にその手を重ねてくる笑顔が、ただ見たくて。
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