第一話 再会

8/13
前へ
/13ページ
次へ
        「遅いな、天ちゃん」 「……うん、そうだね、」 「まだ会議終わんねえのかなー」 「さあ、どうだろう……」 「そういや、古文の白井ってマジでヅラだと思うか?」 「…………さあ、どうだろうね、」 「…………、」  ひどく重苦しい空気が、八畳の空間を隙間なく埋め尽くしている。 切れかけの蛍光灯に、下校時刻を告げるどこかもの悲しい『蛍の光』。最悪にいらん演出だ。 グラウンドから聞こえてくる楽しげな声が忌々しい。  しかし、俺が尤も『忌々しい』と感じているのは、この空気を一向にどうにも出来ないでいる『俺自身』だった。  俺ってこんな会話下手だったっけか。思わず自問する。 ちっとも間が持たず、空気は重く質量を増すばかり。たった机一枚分の幼馴染みとの距離が、実際は数十メートルにも感じてしまう。  マズい。非常に。  つーか、いやだ。このままじゃ。  何とか平然を装いつつ次の言葉を探していると、鳴海が捲る文庫本の音がグラウンドの声に控え目に混じってきた。 その文庫本に、俺たちの近所にある書店のロゴが印刷された紙製のカバーが掛けてある事に気が付く。 鳴海もまだあそこに通っているのか。そんな昔の名残を妙に嬉しく思った。  
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加