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「遅いな、天ちゃん」
「……うん、そうだね、」
「まだ会議終わんねえのかなー」
「さあ、どうだろう……」
「そういや、古文の白井ってマジでヅラだと思うか?」
「…………さあ、どうだろうね、」
「…………、」
ひどく重苦しい空気が、八畳の空間を隙間なく埋め尽くしている。
切れかけの蛍光灯に、下校時刻を告げるどこかもの悲しい『蛍の光』。最悪にいらん演出だ。
グラウンドから聞こえてくる楽しげな声が忌々しい。
しかし、俺が尤も『忌々しい』と感じているのは、この空気を一向にどうにも出来ないでいる『俺自身』だった。
俺ってこんな会話下手だったっけか。思わず自問する。
ちっとも間が持たず、空気は重く質量を増すばかり。たった机一枚分の幼馴染みとの距離が、実際は数十メートルにも感じてしまう。
マズい。非常に。
つーか、いやだ。このままじゃ。
何とか平然を装いつつ次の言葉を探していると、鳴海が捲る文庫本の音がグラウンドの声に控え目に混じってきた。
その文庫本に、俺たちの近所にある書店のロゴが印刷された紙製のカバーが掛けてある事に気が付く。
鳴海もまだあそこに通っているのか。そんな昔の名残を妙に嬉しく思った。
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