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やっぱり、ちゃんと話がしたい。
伏せられた鳴海の長い睫毛の先が切れかけの光を受けて曖昧に輝く様を、眺める。
確かに背や声や顔立ちは俺同様高校生になったと思うが、中性的でどこか儚げな雰囲気はそのままだ。
「……相変わらず読書家だな、なるは」
変わってしまった中にある変わらないこと。
幼い頃、俺に絵本を読んで聞かせてくれた鳴海をふと思い出して、つい口からそんな言葉が零れた。
俺はそのままずっと見ていたから、顔を上げた鳴海と当たり前に目が合う。先に逸したのはやはり鳴海の方だった。
何とか空気を変えたかった俺は、構わずに、むしろ少し身を乗り出して更に続けた。
「今はなに読んでんの?」
「夏目漱石、」
「ああ、昔の千円札」
「……何だよ、その認識」
「いや、タイトルぐらい知ってるって。
えーと、ホラ、我が輩は犬である!」
「猫だよ」
「嬢ちゃん!」
「坊ちゃん」
「気持ち!」
「こころ。…………お前、わざと間違えてるだろ?」
「バレたか」
「バレたか、じゃないよ。何の嫌がらせなんだソレ」
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