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だが叫ぶ前に、彼は呼吸を止めた。
おじさんが、立ち上がったのだ。いつもの朝と変わらず、何もなかったかのように、仲間の減ったつむじ区で、ぴんと背筋を伸ばしていた。
それはいつもの光景だった。彼は、毎朝誰よりも早く眼を覚まして、ハヤシムラの毛たちを持ち前の怒号で目覚めさせる。あの声で起床するのがカミタの習慣であり、アデコの習慣だった。それは無くてはならないものだとか、そういったものではなく、ごく当たり前のことだった。
人間で言えば、毎朝遮光カーテンの隙間から入り込む柔らかい日の光みたいなものだろうとカミタは思っている。
それが、今朝はなかった。カミタが目覚めたのは主人の時計の音のおかげで、アデコはカミタが起こしたのだ。だから彼女はあんなにも不機嫌だったのだと、実は気づいていた。
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