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カミタはもう一度おじさんを見た。
そこには、普段とは違うことが一つだけあった。
「死んじゃったんだね」
アデコの沈んだ声がした。カミタは彼女の横顔を一瞥し、小さく頷いた。
違うこと、それは、おじさんが自分の力で立っていないということだった。
伸びている背筋は、周りの毛たちに支えられているだけだった。
年のわりに健康的だったはずの肌はかぴかぴに乾ききっていて、とても昨夜鼻歌を歌っていた老人と同一毛だとは思えず、カミタは無意識のうちに眼を逸らした。
その時誰かが、時間がないぞ、と叫んだ。
数秒後、視界の端に、主人の頭から落下してゆく髪の毛が見えた。
それがおじさんかどうかは見なくても分かった。
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