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優しく柔らかい生地で出来ている七分丈のズボンのポケットから、僕は手のひらサイズの物を取り出す。
見掛けは橙色をした果物、ミカン。
だが、本物みたいに柔らかくはないし。皮も剥けない。
柑橘類の匂いもせずとも、質感はミカン そのまま。
………………これはここにいる奴等全員。生まれた時から持っていた。
この『物』
なんだか分からないが、持っていなきゃいけない気がする。
………………感じるんだ。
僕の命を、この『物』から。
「………………」
………見つめれば見つめる程、
儚い気持ちが伝わってくる。
例えるならば、一息で消せるロウソクの火の様。
……この『物』の存在に、僕らは堪らなく惹かれる。
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