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中庭にある時計を見ると、すでに3時半過ぎをさしていた。
「今から帰ると5時近くになっちゃうな…。」
仕方ないとため息まじりに呟いて、再び携帯を取り出し、タクシーを呼ぶ。
正門前で、タクシーを待っている間、仕事用の表に“秘密事項”や社名の“カプリチオ”と書かれた黒い分厚いファイルを取り出し、今回の仕事内容を確認する。
そうしている間にタクシーが到着し、行き先を告げて乗った。
「お客さん、音大生かい?」
ミラー越しに、タクシーの運転手さんに声をかけられ一瞬ビクッとするが、すぐに
「ええ…一応。」
ニコッと微笑み、返答をする。手にしていたファイルを鞄にしまい
「あの、クラブ“アクア”ってどの辺にあるんでしょうか?」
あたしが質問をすると、運転手さんは少し目を丸くし、意味深にニヤリとしたかと思うと
「お客さん、やっぱり若いからホストクラブにも行かれるんですか?」
ハハハ…と豪快に笑いながら
「よければ、まわって行きましょうか?料金はその間だけストップさせときますわ」
優しい目をして笑うと、少し目尻に皺ができる運転手さんの言葉に甘えることにした。
「ありがとうございます。」
あたしも一言お礼を言ってとびきりの笑顔で返した。
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