第2楽章

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自宅のマンションに着き、運転手さんにお礼を言い、運賃を支払ってタクシーを降りた。 学生が1人で住むには、だいぶ似つかわしい30階建てのマンション。高級感が漂っている。 「儚い夢…かぁ」 目の前にそびえ立つ高層マンションを見上げ、中へ一歩踏み出し、扉のセキュリティを解除する。 2101号室の郵便受けを開け、郵便物の有無を確かめる。中には、チラシやDMが数通届いているだけ。 「アクア…ね。」 届いていた郵便物を取り出し、静かに郵便受けを閉める。 「アクアがどうかしたのか?」 不意に聞き慣れない声が背後からし、思わずビクッと反応してしまう。 恐る恐る目線だけ後ろにやると、少し派手なスーツを身に纏った背が高い男があたしを見下ろしていた。 何か威圧的に見下されたような感じのする人。 「あの…確か、お隣の…一ノ瀬さん…でしたっけ?」 お隣といえどあまり顔を合わさないため遠慮がちに尋ねた。 「あぁ、そっか。俺、あんたと面識なかったっけ?」 顎に手をやり、ニヤリと妖艶に笑う姿は、あたしも思わず見とれてしまった。 「どうも。クラブ『アクア』でホストをやってるレオこと、一ノ瀬玲音です。お隣の2102号室です、よろしく。」 スッと手を差し出し、梨亜の空いていた手を軽く握りしめる。 その際に、ふわり…と何かいい香りが漂った。
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