第2楽章

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突然のことで、あたしも呆然としてしまった。 「あ…の…」 『何か用事でもあるんですか?』 そう聞こうとした。 しかし、あたしの口から、続きの言葉が紡ぎ出されることはなかった。 正解には『紡ぎ出せなかった』のである。 代わりに唇に柔らかく、温かい物の感触がする。 目の前には、先程まで他愛ないお喋りをしていたお隣の一ノ瀬さんの薄い金色の前髪が顔にあたっている。 一ノ瀬さんのつけているというアクアマリンの匂いが、強く香る。 何が起こっているのか、理解するのに多少、時間がかかった。 一ノ瀬さんの顔が次第にゆっくりと離れていく。 「これからよろしく、梨亜ちゃん。もう少しキスの勉強したほうがいいぜ?」 そう、一ノ瀬さんが言ったのと同時にエレベーターが閉まった。 彼は、あたしを見ずに軽く手をヒラヒラさせながら外へと歩いて行った。
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