序章

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ただいま、手元の時計で13時ちょっと過ぎ。 照り付ける太陽が眩しくて、あたしは思わず目を瞑る。 周りに響くのは不協和音。ガチャガチャうるさくて、耳を塞ぎたくなる。 ランチ帰りのOL。 携帯を片手に、営業電話をしているサラリーマン。 ちょっと派手な格好をしたカップル。 たくさんの人混みに流されながら、あたしは目的地へと先を急ぐ。 何も変わらない、いつもと同じ“日常”──…。 代わり映えのない退屈な日常。 『今のあたし』にとっては。 「暑っ…。もう夏じゃない。梅雨はどこにいったのよ」 人混みを少し抜けて、目的地であるアパート近くの公園で同じ大学の雨宮悠を待つ。 雨宮悠とは、幼なじみで、かれこれ幼稚園の頃からの付き合いだ。 そして、あたしの仕事のパートナーでもある。 恋愛感情などという、甘い関係などではない。あくまで幼なじみであり、仕事上のパートナーなのだ。 木陰にあるベンチに腰かけ、悠を待つ。 公園には、親子で遊びに来ている人たちが数人いた。 元気に走り回っている子、母親に背中を押してもらい、ブランコに悠々と乗っている子など様々である。 時折、子どもたちの楽しげで、かわいらしい笑い声が聞こえる。 「よぉ。待たせたな」 少しも悪びれた様子もなく、ドクロが刺繍されているピンクのポロシャツにジーパン、シルバーアクセを着けた雨宮悠が現れた。 非常に整った顔立ちをしており、スーツを着ていれば、ホストとしても通用する。 まぁ、実際、こいつはバイトでホストをやっていたりするのだが…。 そんなことを思いながら、一言文句を言おうとしたが、隣にドカッと腰かけ、胸元をパタパタさせ 「あっちぃ。マジであり得ねぇ」 一人でぶつぶつ文句を言いながら、気だるそうな表情であたしを見る。
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