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「ねぇ…。さっきから女の人が次から次へと中へ入っていくじゃない」
アクアの裏の従業員用の駐車場に車を止め、正面玄関まで歩き、目の前の建物を見つめる。
「そりゃ『アクア』だからな。ほら、行くぞ?」
悠もといアクアのホストの『ハルカ』は、然も当たり前とでもいうように、目の前の現状を肯定する。
そして、あたしの右手をそっと軽く握りしめ、店内へとあたしを誘う。
1歩1歩、店内への入り口の扉へと近づくたびに、あたしの嫌悪感は増す。
ホストクラブに対しての嫌悪感ではなく、今の世の中に対してとでも言うのだろうか。
ハルカが扉の取っ手へと手を触れる。
あぁ。あたしも夢の世界へと足を踏み入れるのだな…などと第三者にでもなったような感覚で考える。
ゆっくりと大きな扉が開かれる。その隙間から少しずつ、光が漏れ、賑やかな音楽が聴こえる。
「ホストクラブって初めてだったっけ?」
少しずつ扉を開けながらハルカが不意に尋ねた。
「えぇ。」
そう静かにあたしは相槌を打つ。
「楽しいけど、どこか寂しい時間が流れている場所だよ。」
顔をあたしのほうへと向け、真顔で
「愛をお金で買える場所さ。その分、俺達はお客様に夢を見させてやる。そういう場所さ」
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