序章

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「見て。とっても幸せそうな親子…。」 あたしは悠の質問を気にせず、目の前に繰り広げられる情景を見るように促す。 そんなあたしの質問を聞いてか、パタパタとさせていた手を止め、あたしと目の前にいる親子とを交互に見ながら 「綺麗な世の中の人なんだよ。」 そう一言静かに呟いた。 優しい笑みを口元に浮かべて。 「そういえば、あたしの隣の住人、ホストらしいよ。管理人さんが教えてくれた。」 「ふーん。俺と一緒じゃん。」 軽く足を組み、あまり興味がないらしく、ポケットからタバコを取りだそうとし 「あたしたち、音大生よ?」 ちらりと相手の持っているタバコを見やり、軽く注意する。 「俺、ヴァイオリン専攻ですから」 あたしの注意も鼻で軽く笑って、気にもせず、タバコを吸い 「つーかさ、その前に未成年じゃん。19なんだし。注意するとこ間違ってるっしょ。」 ハハハッと目を細め、ベンチの背に両手を広げる。 どんな格好をしても様になってしまうのだから、憎たらしくもあり、羨ましくもある。
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