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廊下に目玉焼きの香ばしいにおいが漂っていた。
淡いピンクのエプロン姿で、るり子が廊下を歩いていく。歩く度に高く結った黒髪が揺れる。薫を朝食に呼ぶために書斎に向かっているようだった。
―コンコン
書斎の扉を前に、彼女は軽くノックをした。
――……。
返事がない。
彼女は首を傾げ、もう一度ノックをする。
―――………。
「…先生?」
彼女はドアノブに手をかけ、そっと扉を開いた。
―(もしかして、まだ寝てる?)
「入りまーす」
小声でそう言って、彼女は部屋に入った。
そこで彼女が見たものは、
倒れた椅子、散らばった書類、本の山…
そして誰もいない部屋だった。
「またですか…」
彼女は落胆の声をあげた。
「すぐどこかにいなくなるんだから」
彼女は困ったように、しかし愛おしそうに呟いた。
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