第1章

8/8
前へ
/8ページ
次へ
  「もう、無視しないでくださいよぅ」 るり子はむすっとして、薫に歩み寄る。 ようやくるり子に気づいたのか、薫は土いじりの手を止めて、るり子のほうを振り返った。 「おや、るり子君。何か用かい?」 相も変わらずマイペースな薫に、るり子は思わず頬をゆるめる。 「朝食、できましたよ」 ふむ、と薫は相づちを打った。 「そういえばまだだった。どおりでお腹が鳴る訳だ」 薫は一人納得した面もちで頷く。 よいしょ、と一人つぶやき立ち上がった。 「先生の“お気に入り”も作りましたよ」 「なるほど、ならば早く行かなくては」 声の調子こそ変わらないものの、薫の目の色が変わったのが、るり子にはわかった。 “お気に入り”のこととなるとうきうきとして喜ぶ薫を見て、含み笑いをする。  
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加