ミューズ河は遠かった。

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「うーん、ルールブックにあるドイツ軍の戦略ってのを読んで、私なりに考えたんですけれど、北はすぐ増援が来るじゃないですか。 中央は薄いけど都市は少ないし、南方は何だかよくやり方が分からないし…。」 またもやキャベツの中から出てきたラップを箸の裏側で摘まみながら言うと、先輩は傍らに置いていた革製のカバンから一冊の本を取り出し、あたしのライスの横に置いた。   「なんですか?」 「シミュレーター・・・、ゲーム雑誌だよ。 今号にはレックカンパニーの大平秀樹氏のバルジについての論評が載っている。 参考になると思うよ。」 「はあ・・・。」 あたしは、ホットペーパー並みに薄いその本をパラパラとめくりながら、なんでこんな変な趣味の人を好きになっちゃったのかなあ?と思っていた。 これがテニスやスキーなら、テニスは中学校の時にやってたし、スキーは実家の長野では日常茶飯事なのに・・・。 そんなあたしの気持ちを知ってか知らずか、先輩はにっこりと笑って言った。 「深紅の稲妻は、いつリベンジに来るかい?」 「えーっと、近々、前期試験の対策と傾向を伺いつつ、この本を読破してから?」 なぜ、疑問形になるのだろう? あたしは、最後のハンバーグをほおばりながら、努めて可愛くにっこりと笑った。
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