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「―駆け落ちしよっか」
「…はぁ?」
彼がそんな“冗談”を言ったのは、夏の終わりが近づいていたある日だった。
蝉がうるさくて、暑い日だったのにクーラーが壊れていたからよく憶えている。
ぶーん、という扇風機が回る音がひどく耳障りだった。
部屋の生暖かい空気をかき混ぜるだけのそれの前を陣取りながら、あたしはクーラーのきいた自分の部屋がひどく恋しかった。
そこはあたしの恋人が一人暮らししているアパートの一室だった。
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