零色-無色透明-

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がたんと軽い衝撃が座席を通して伝わる。目的の駅に着いたことを確認してから玲斗は立ち上がる。 「降りよう」 紗枝は少し怒ったような顔をしながら玲斗に続いた。 駅から少し歩くと、特に何の変哲もない霊園が見えてくる。 そこは両親が眠る場所。 ……正確には名前だけが刻まれている墓石のある場所だ。事故現場から両親の遺体が発見されなかったためである。 ここに来るといつだって胸が押しつぶされるような苦い気持ちになる。 厚い汚れを被った墓石、それは自分達以外に墓参りに来た人がいないことを悲しいまでに教えてくれていた。 毎年同じ時期、同じ時間帯にこの場所に来る。そして同じように色々な事を思い出す。 三人で笑いあって食卓を囲んだこと。遊びに出掛けたこと。いたずらをして叱られたこと。 その全てをついこのあいだの事のように思い出す。 無言のまま、玲斗は胸に溜まった錯覚を押し出そうとした。 懐かしい感情はいくらでも湧き上がるのに、墓石を見つめるとそれが遠い昔の事だと思い知る。 霊園の水汲み場で汲んできた水で墓石を洗い、花瓶に新しい花を供える。 玲斗と紗枝は墓石の前で手を合わせた。 何も入っていない墓に手を合わせるのも馬鹿げた話だと玲斗は思う。遺体が事故現場から見つからなかったのだから、両親はまだ生きているかもしれないと思っていた過去の自分も馬鹿げている。 相当な高さから燃え盛る車ごと落ちたのを玲斗は見ていた。他の誰でもない本人が見届けた結末にそれ以上も以下もないことを、今の玲斗は知っている。 静かに吹き抜ける風に前髪を揺らされて玲斗は顔を上げた。 直後目に映ったその光景。 見知ったはずの景色がその有り様を変えたことは更に馬鹿げているように思えた。
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