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「なにが……」
起こった?
固まった思考のため頭が重くなったような錯覚を振りかぶり、玲斗は必死に考えた。
ほんの数秒間、手を合わせて目を閉じていただけなのに。
「何、これ……」
紗枝の焦燥を含んだ声がすぐ側で聞こえる。それに答えられずに玲斗は辺りを見回した。
辺り一面、白一色。
玲斗と紗枝に変化はない。
しかし、それ以外の全ての色が白なのだ。 緑の葉も青い空も、全て……
誰も足を踏み入れていない雪原を見ているような、それほどまでに全ての色がない。
「綺麗だろう? 色のない世界も」
不意にそんな声が響いた。
どこからともなく白衣姿の男が姿を表す。
面長の顔に細いフレームの眼鏡をかけている。薄いレンズの奥の両眼は糸のように細く、まるで常に笑っているかのようだ。
白衣のポケットに手を入れて口には微笑を浮かべている。
「……あなたは、誰?」
警戒をそのまま言葉に込めて、紗枝をかばう位置に立ち玲斗は男に尋ねた。
この異常時に混乱や戸惑いの様子が見えない。それどころか……
「いいね、その態度。眼帯は病気かい?」
白衣姿の男は細い目を更に細めて笑った。
人の良さそうな笑顔。しかし、そこには油断のできない空気が流れていた。
(なんだ? この人……)
好意ともとれる笑顔にここまで緊張を強いられることは玲斗にとって始めてだった。
男までそれなりの距離があるのに心臓がバクバクと音を立て言うことを聞かない。
「へぇ、人を見る目もあるんだ。素晴らしいね」
間近かまでゆっくり歩いてきた男は満足そうに頷いていた。
「なんですか?」
後ろにいた紗枝が毅然とした態度で男を見つめ返す。
それに男は変わらず微笑を浮かべるだけで意外な言葉を投げてきた。
「あのさ、君たちは色のない世界ってどう思う?」
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