始まりの話

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ヒトが生まれ、生きる理由。誰かがヒトはヒトを幸せにするために生まれると言った。 それは嘘だ。 ヒトがヒトを幸せにするために生まれるのならヒトはこうも醜い色にはならない。 色とはすなわち心を最も目に捉えやすくしたものであり、色の数はヒトの数だけ存在する。 黒を生み出しのがヒトならば、また他の色を生み出したのもヒトなのだ。 ならば何故、ヒトは己の持つ心の色より欲という名の黒に身を染めようとするのか…… 「飛躍しすぎだな。お前もそう思うだろう? それとご苦労だったな」 初めて彼の口元に感情が宿った。嘲笑するように口の端を歪めながら、誰かに向けて言葉を放つ。 いつの間にか彼の傍らには一匹の犬が寄り添っていた。 白の体毛に包まれた堂々たる体躯は彼の腰辺りまであり、彼の纏う布と同じ色の瞳をもった巨犬は彼に向けて答える。 「我はお前に宿りし藍鉄の意志。我こそお前の色。お前が望むのならそれは我の意志」 「しかし他の者達の働きはどう見えた?」 目に映るのは彼が長年囚われていたちっぽけな世界ではない。 外沿部に近い建物は半ばから砕けて無残な傷痕を刻んでいた。 中央付近では様々な色彩の光が花火のように弾けてはここまで聞こえるくらいに爆音を響かる。 この瞬間、裏界という名のひどく小さな世界は悲鳴もあげずに破壊の結果を受け入れたのだ。 無感情に故郷のそれを見つめていられる自分に軽く驚きを覚えてなお、彼は黙って巨犬の返事を待った。 「色想師とは己の感情をごまかし闘うことはできない者達だ。お前の目に映る色彩に偽りはない」 「そうか。そうだったな」 世界に絶望する者。人間に失望する者。己が持つ色に幻滅した者。そういう色想師達が彼の下に集まっている。 気持ちに嘘偽りがあれば色想師の力は彼の目に映るように美しくは見えないだろう。 「ならば同志に伝えてくれ。『己の色想に従え』と」 「承知」 一言そう言った巨犬は霧のように姿を霞ませると、彼の傍らから存在を消した。 「私も色想師である理由を探そうか」 そして世界の全てだった場所に背を向け彼は歩きだした。低い遠吠えが裏界中に響く……
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