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山に沿って作られた舗装道路。
夜も深まったこの時間には相応しくない激しい明かりを放つ一帯があった。
白いガードレールに突き刺さった赤い軽自動車。人工灯の光がないなかで色が判別できるのはそれが車の色ではないからだろう。
小さい車からは星空を霞ませるほどの炎と煙が上がっていて、事態の凄惨さを物語っている。
すぐ側には車から投げ出されたのかうつ伏せでうめく少年が一人いた。左眼にはガラスの破片が刺さり痛ましい姿である。
ごおっと凄まじい音を立てて大きく炎が揺らめくと、少年はハッとしたように首を素早くを右に左に向ける。
目的の姿がないことを確認し、最後に恐る恐るといった表情で目の前で燃え盛る車に視線を向けた。
「母さん! 父さん!」
少しでも車に近づこうと手を伸ばしながら叫んだ声は悲鳴に近いものであったが、それはより大きな音に掻き消されてしまった。
大きな音の正体、それは車が一際大きな炎に包まれながら崖を転がり落ちる音だ。
「あ、ああ…うあああああ!!」
少年は手を伸ばしたまま叫び続けた。
~~~~~~
小さな心は脆く、壊れやすかった。
冷たい黒色の光。
なぜか右目だけに映る。
確かに見たあの時の光景。
炎の色。
朱(アカ)――
大切なモノを連れ去っていく影。
不気味な笑み。
黒――
朱い炎。
冷たい瞳。
響く自分の叫び。
そして訪れる覚醒。
朝が来る。
目覚めはいつも通り、
――最悪だ。
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