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「いい加減……起きなさい!」
少女は大声を上げて少年の体を激しく揺すっていた。カーテンの間から覗く朝日が彼女の腰まである明るい栗色のロングヘアーを照らし出す。
それに少年はうっすらと目を開けただけで、再び眠りにつくために寝返りを打つ。
簡易のパイプベッドがギシリと音を立てると、それを見た少女は口元に怪しい笑みを浮かべた。
「ふーん、そんなに優しく起こされるのが嫌いなんだ。いいわよ……起こし方は色々あるから。ねぇ、玲斗(れいと)」
「……っ!!」
音をたてそうな勢いで少年……玲斗は起き上がる。その動作と共に彼を起こしていた少女がカーテンを開けた。
シャーッという心地良い音が部屋に響くと、優しい朝の日差しが片目を擦る少年を照らす。
「はい、おはよ」
「……おはよ、紗枝(サエ)。なんでいるの?」
濡れ羽色の髪、眼帯のため片目しか見れない藍色の瞳。 十代後半を迎えた、なにがしか成長を見せ始めるその顔は無理矢理起こされたことへの不快な表情を浮かべていた。
「今日は『あの日』でしょ? 寝坊常習犯のあなたを起こしにきた優しいお向かいさんを不審者みたく言わないでくれるかしら。外で待ってるから早く来てね」
「インターホンくらい鳴らしてくれないと本当に不審者だよ」
短いやり取りを終えると紗枝は部屋を出ていった。それを見送り大きく伸びをすると、素早く着替えをする。鏡の前で軽く寝癖を直し、もう一度軽く伸びをする。
自室から出た玲斗はリビングに向かい、充実した内容とは言えない冷蔵庫から麦茶を取り出してコップに注ぐ。
最近では生活に必要最低限の物しか置かれていない寂しいリビングにもなんの違和感も感じなくなった。
(最初は嫌で仕方なかったのに)
自分をそう笑いながら、玲斗は麦茶を飲み干すと玄関へ足を向けた。
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