零色-無色透明-

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扉を開けると、初夏に相応しい爽やかな風が頬を撫でる。 街灯がまだ明かりを残しているが、それよりも強く朝日が道を明るく照らしていた。 朝が苦手な人にとって朝の日差しほど嫌なものもない。玲斗は右目を細め、光に慣れるまでその場で立ち尽くした。 (綺麗だとは思うんだけど……) 細めた目で白々とした朝の光景を眺めていると、ドアの前にいた紗枝が嘆息気味に呟いた。 「まったく、目覚ましくらいかければいいのに」 「それで起きれたら苦労してないよ」 ようやく目を開けていられるようになり、玲斗は紗枝と並んで歩き出した。 簡素な住宅が建ち並ぶこの道は昼間になれば奥様方が世間話に華を咲かせる道だ。 玲斗が今年から入学した高校の通学路ということもあり、平日ならばこの時間帯でも部活の練習などでちらほら学生の姿があるのだが、休日となればその姿も見ることも少ない。 もちろん玲斗も高校へ行くときはこの道を通るわけだが、玲斗が家を出るときは常に朝の喧騒が出迎えてくれる。 そのため静寂に包まれたこの空気は目覚めの悪さとあいまって居心地の悪さを感じるのだ。 「朝早く起こされて機嫌悪い?」 憂鬱な気分で俯きながら歩いていた玲斗に紗枝が尋ねる。 「そういうわけじゃないよ」 「なら、これから行く場所に問題があるわけだ」 「…………」 お見通しだった。 昔から隠し事が表情に出ないタイプだと自負していた玲斗はなんとなく悪い事をした気分で言葉を探したが、口から言葉が出るより先に駅に辿り着いてしまった。 電子マネーで改札を抜け、都合よくホームに滑り込んでくる電車に乗り込む。 車内の空気がひんやり気持ちよく、間抜けな音を立てて電車のドアが閉まる。 ガタゴトと規則正しい揺れと程よい冷気は眠気を刺激する。玲斗は再び睡魔が襲い来る前に流れる景色に視線を向けた。 高速で右から左に移動する風景は見ていて楽しいものではないが、暇つぶし程度にはちょうどいいのかもしれない。
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