零色-無色透明-

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人のいない車内はとても静かだ。その静けさの中にただ身を委ねる時間。 「目の調子はどう?」 その静寂を破ったのは隣に座る紗枝だった。毎年繰り返されるこの質問に玲斗としては苦笑を隠せないでいる。 「大丈夫だよ。最初の頃に比べて痛むこともないからね。ただ、やっぱり治らないみたい」 「そっか。視力の方は相変わらず?」 「うん。右目は2.0以上、遠くまでよく見える」 白いガーゼでできた眼帯に触れる。 一生開けることはできないと医者に宣告された左目。 それを補うためか右目の視力だけはすこぶる良く、『あの日』から十年経った今では距離感も掴めるようになったので生活にはなんら支障はない。 「ただ、今朝も夢をみた。なかなか忘れることはできないんだね」 事故にあった時の映像は今でも夢として鮮明に再生される。少し気分が冴えないのも目覚めが悪かったせいなのだろうと玲斗は思った。 「寝坊したのは夢のせいだったのね。最近その話全然聞かないから見なくなったんだと思ってた……ねえ、もしかしたら」 「ここ数年はなかったんだけど、今日久しぶりにみたんだ。でも、最後の方はよく分からない夢になってた」 玲斗は軽く笑って会話を切った。この昔からのお向かいさんは他人の心配をしすぎる癖があるのだ。
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