第一章 ~誓い~

5/11
前へ
/53ページ
次へ
「お父さん・・・。」 居間にいた父にに声をかけた。 普段からあまり会話をしていなかったあたしは、何を話せばいいのか分からずに、父の言葉を待っていた。 無表情のまま父がスっとテーブルの上に通帳を差し出す。 「晴夏、何か必要なものがあったら遠慮なくここから使って良いから。」 またお金の話・・・。 あたしにはお金さえ渡しておけば、父親の役目は果たすって訳・・・? そんなんだから、お母さんにだって・・・。 ダメだ。 思い出さないって決めてたのに。 一瞬の戸惑いの後に、過去戻ってしまいそうな意識を、今に戻す。 「うん・・・。大丈夫だよ。叔父さん叔母さんも優くんもいるから・・・。一人じゃないんだし。」 そう。 大丈夫。 あたしは自分に言い聞かせるように言った。 「そうか・・・。分かった。じゃあ兄さんに挨拶してくるよ。そろそろ出ないと間に合わないから。」 そう言って父は立ち上がり、車の整備工場を営む叔父さんの所へ向かった。 あたしが何も言わずその後ろ姿を見つめていると、父は足を止め振り返った。 「晴夏。兄さんたちに迷惑をかけないようにな。 それじゃ、行ってくる。」 「うん・・・。行ってらっしゃい。」 少しは寂しい気持ちになるのかと思ったけど・・・。 別れはあっけなかった。
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加