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「お父さん・・・。」
居間にいた父にに声をかけた。
普段からあまり会話をしていなかったあたしは、何を話せばいいのか分からずに、父の言葉を待っていた。
無表情のまま父がスっとテーブルの上に通帳を差し出す。
「晴夏、何か必要なものがあったら遠慮なくここから使って良いから。」
またお金の話・・・。
あたしにはお金さえ渡しておけば、父親の役目は果たすって訳・・・?
そんなんだから、お母さんにだって・・・。
ダメだ。
思い出さないって決めてたのに。
一瞬の戸惑いの後に、過去戻ってしまいそうな意識を、今に戻す。
「うん・・・。大丈夫だよ。叔父さん叔母さんも優くんもいるから・・・。一人じゃないんだし。」
そう。
大丈夫。
あたしは自分に言い聞かせるように言った。
「そうか・・・。分かった。じゃあ兄さんに挨拶してくるよ。そろそろ出ないと間に合わないから。」
そう言って父は立ち上がり、車の整備工場を営む叔父さんの所へ向かった。
あたしが何も言わずその後ろ姿を見つめていると、父は足を止め振り返った。
「晴夏。兄さんたちに迷惑をかけないようにな。
それじゃ、行ってくる。」
「うん・・・。行ってらっしゃい。」
少しは寂しい気持ちになるのかと思ったけど・・・。
別れはあっけなかった。
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