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「カオリ…その、体…」
カオリの肩から、光の粒子が散り散りとなり消えていく。
聞かなくても分かっていた。
…覚悟していた筈なのに。
ここに、永遠には居られないって、最初から分かっていた筈なのに。
「やっぱり…」
上手く、言葉が出ない。
「やっぱり…俺…」
言葉に嗚咽が入り混じる。
「ユーくん」
ずっと下を向いてしゃくり上げている俺を、ふとカオリが、やはり幻想的な声で顔を上げさせる。
既に体の半分以上は光の粒子となっていて、もう時間が無いということを物語っていた。
「ユーくん、私ね」
目の前に立っているのに、言葉が脳に直接響いているような錯覚に陥った。
「ユーくんのこと、本当に大好きだったんだよ」
俺も、今も昔もカオリが大好きだ。
だが言葉にはしなかった。
否、できなかった。
「行かないで、って言わないの?」
カオリは俺とは正反対のおっとりした明るい声で語りかけてくる。
あれ…。
「…もう二度と、会えない訳じゃ、ない…そうだろ?」
カオリの明るい口調を聞いた途端に涙は自然と引いていて、不思議とまたカオリに会えそうな気がした。
「…ねぇユーくん、お願いがあるの」
「…ん?」
カオリは少し間を置き、小さな声で呟いた。
カオリらしい願いだ。
それが率直な感想だった。
「分かったよ、カオリ。絶対に…絶対、に…あれ?」
視界が急にぼやける。
涙は引いた筈なのに…。
もう泣かないって、カオリの前では笑顔でいようって、たった今決心したばかりなのに…。
「ユーくん、顔上げて…」
既に光となったカオリの体が、俺の体を包み込む。
「またね、ユーくん」
俺が『あの日』散歩に誘ったとき見せたのと同じ…最高の笑顔。
反則だろ…それ。
この世界に来たときと同じような眩い光が迸る。
気が付くと、俺は寺にあるカオリの墓の前に立っていた。
手には、百合の花が握られていた。
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