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『俺の世界は…もう滅んでしまった
俺は…世界を捨てたんだ』
瞳を閉じると悪夢のように思い出してしまう
混沌の世界
血と憎しみの瞳
悲鳴と罵声
裏切りが交差していくあの世界を
人間が人間でなくなっていくあの世界を
男は逃げるように
その世界を捨てた
あの世界で死ねなかった己を
あの世界から存在を自ら葬って
時間の狭間を生きる森と共に
無の時間を生きる‘虚人―ウツロビト―’となった
『ならば、貴方は一体何者なのでしょう?』
幼い女は問う
『わからない』
首を横に振る男に、幼い女は無邪気な笑顔を一瞬だけ見せて真剣な顔つきになった
『けれど、貴方はここに居る』
『何故、俺はここに居る?』
何も知らない無智の子どものように
男は問いかける
それは男が人間だという証なのか
それは男が人間でありたいと願う心の叫びが生んだものか
*
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