狭間世界

6/37

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ
『俺の世界は…もう滅んでしまった 俺は…世界を捨てたんだ』 瞳を閉じると悪夢のように思い出してしまう 混沌の世界 血と憎しみの瞳 悲鳴と罵声 裏切りが交差していくあの世界を 人間が人間でなくなっていくあの世界を 男は逃げるように その世界を捨てた あの世界で死ねなかった己を あの世界から存在を自ら葬って 時間の狭間を生きる森と共に 無の時間を生きる‘虚人―ウツロビト―’となった 『ならば、貴方は一体何者なのでしょう?』 幼い女は問う 『わからない』 首を横に振る男に、幼い女は無邪気な笑顔を一瞬だけ見せて真剣な顔つきになった 『けれど、貴方はここに居る』 『何故、俺はここに居る?』 何も知らない無智の子どものように 男は問いかける それは男が人間だという証なのか それは男が人間でありたいと願う心の叫びが生んだものか *
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加