雪原の英雄

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祝宴が始まり、祐啓は自室に戻って一人静かに倉石の講義の復習をしていた。 そのころ隆啓は数多の祝い客の相手をしながら五分と経たずに問題を起こす泰啓に、自分の為の祝宴のはずなのに別の意味で泣きそうになっていた…ようだが、そんな些細な事など…今更どうでも良い。 倉石の講義を思い出しながら復習をしていると、その度に祐啓は本当に知識の冒険者になる。 倉石の言葉に散りばめられた深い知識の雨が、更なる疑問を呼んでくる。 どうしてあの時、この質問をしなかったんだろう…。 あぁ…、これも…。 あの時、ちゃんとここまで理解できていたら…。 そうしたら、あの時に倉石先生に質問が出来たのに…。 楽しくて楽しくて仕方がない。 後で祝宴が終わったら、少し倉石先生にお時間をもらえないものだろうか…? 夢中になる。 没頭する。 どのくらい時間が経ったのか、時間の流れも忘れてしまっていた時。 「失礼します…。 杉浦くん?倉石です」 その声が聞こえて、祐啓は心底驚いた。 ──私の祈りを察して…? まさか…と思いながら、兄弟子に対する礼儀として、倉石からではなく自分から襖を開けて迎え入れる。 「はい。ただいま」 襖を開けて丁寧にお辞儀をしようとした矢先、倉石の横に小さな人影を見付けて固まった。 「晃一くん…?」 倉石の陰に隠れるように、晃一がモジモジしていた。 すると、倉石がひっそりと笑顔を浮かべながら言う。 「私には、そんなに礼を尽くさなくても大丈夫だから…。 隆啓さまの祝宴だから、私もお祝いさせて欲しかったんだけど…。 この子と逃げてきちゃいました。(笑) いま、大丈夫かな…?」 「はい…。 私は倉石先生のご講義の復習をしていて、ちょうど先生に質問させていただきたいものが幾つか有って…。 むしろ嬉しく思います。 あ…。失礼しました。 どうぞ…」 倉石と晃一を自室に迎え入れ、祐啓は怪訝に問う。 「──あの…、逃げてきた…と、おっしゃいますと?」 すると、倉石は「それよりも…」と、祐啓の机を眺めた。 「晃一くん。 申し訳ないんだけど、まず杉浦くんの質問に答えてみても良いかな?」 「はい…。どうぞ…」 「ありがとう。 やはり私は、どうしても学問の虜でね…。 近くに疑問が有ると、放っておけなくて…」 倉石が申し訳なさそうに晃一に詫びながら、頭を掻きつつ微笑んだ。
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