12人が本棚に入れています
本棚に追加
「やだなぁ」
呟きながら、真っ暗闇の教室を歩く少女。
手にしたライトの灯りは心許なく、足下すらも、ぼんやり。
「早く見付けて、帰らなきゃ」
少女がふっと足を止めた時。
「うがーっ!」
背後から鈍い唸り声と共に、襲い掛かる黒い人影。
少女が振り向き、闇を裂くような鋭い悲鳴を上げた。
「きゃーっ!!」
そして、相手の右腕を巻き込むと。
「せいやーっ!」
赤、背負い投げ、一本!
「じゃない、っす、ないっす! カット、カットーっ!」
シャーという音と共に差し込む陽の光。
白日の下に晒されたのは、机と椅子が片付けられた教室。
メガホン振り回して怒鳴るは、野性味溢れたぼさぼさ黒髪の少女。
「殺人鬼を投げるんじゃないっす!」
そのままの勢いで迫るなら。
「ご、ごめんなさい」
しょぼんと頭を垂れた、ボブヘアの少女は、その勢いに後ずさる。
「でも、目の前にいると、つい」「つい、じゃないっす!」
「ユテア会長、由衣(ゆい)」
教室の隅に立っていた、金髪蒼瞳の少女が手を上げて発言。
「リヴィアナ・ユーティライネン、なにっす」「はい?」
「友田(ともだ)君の内臓が危ういです」
「お」「あ」
二人の足下にうつ伏せの男。
「友田君っ!」
ユテアを突き飛ばし、ぐったりとした少年を背中に抱えて。
「保健室に連れて行きますーっ! 友田君、ごめんねーっ!」
廊下へそのままダッシュ。
「はあー」盛大に溜め息ついて、壁に寄りかかる。
「やっぱり、キャスティングに無理があったっすか?」
「会長」それまで黙って立っていた少年が、挙手して「やっぱり、俺が殺人鬼をやりましょうか」
黒髪の下に切れ長の黒い瞳の少年に、判決は簡単に下る。
「ガザはダメっす」
リヴィも真面目な顔で「殺人鬼は、マスクつけなきゃいけないのよ? そんな役やらせられる訳ないでしょう」
「…なんで」
「「女性観覧者獲得用」」
人寄せパンダですか。そうですか。
「それに」何故か女二人、薄笑いを浮かべながら「いい男が恐怖に染まる表情(かお)が、ねぇ」「リヴィアナ・ユーティライネン、ヨダレっす」「あ、ごめんなさい」
…人寄せパンダより、酷い扱いになるかも知れないのか。
背筋に冷たい汗が流れる。
最初のコメントを投稿しよう!