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「どーでもいいけどよー」疲れた声が上からする。
「いい加減、下りてもいいか? ついでに脱いでもいいか?」
教室隅の掃除道具入れのロッカーの上、窮屈に身体を折ってカメラを構えている全身黒タイツの少年。
「あ」「いたのね」
哀れな。
もそもそとロッカーから下りた少年、律儀に挙手して。
「会長、カメラマンはいいけどよ、全身タイツはいらないんじゃねえ?」
「何を言うっす。ネルフェ」ぐぎっ。
場を占める沈黙。
そこに現れる、にこにこ顔の学生服少年。
「ようやく『映画同好会』で、校舎合宿とロケの許可取れた…って、あの…」
皆の視線が向いて。
ユテアがぐふっと咳込めば、つーと口の端に赤い筋。
「か、会長ーっ! また、ネルフェイムの名前を噛んだんですかーっ!? 保健室、保健室ー!!」
ユテアの腕を掴むと、ばたばたと飛び出した。
「和樹(かずき)も大変だわね」「世話焼きだから、いいんじゃないか」
と見送っていると。
「納得いかねー」
ぶすくれネルフェイムがタイツの頭を脱ぐ。見事な赤毛が顔を出した
「なんで、リヴィはフルネーム言えるのに、俺のは毎回噛むんだよ」
リヴィは余裕の笑みで解答した。
「それは、睡眠学習の成果」
「「『睡眠学習』?」」
「ええ」答えるなり、自らの胸元に手を突っ込んで、ゴソゴソ。
リヴィの豊かな胸元に、ついつい目がいく少年達。
そして、出て来たのは。
「『睡眠学習枕』~」
普通の枕サイズに、スピーカーが内蔵されていて、横に付いた赤いボタンをポチッと押せば『リヴィアナ・ユーティライネン、リヴィアナ・ユーティライネン…』とリフレイン。
「朝、睡眠導入剤飲ませたら、お昼休みまで寝てくれたから、一週間で成果が出ましたけれど」うふふ。
それは、本人に許可貰ったんですか?
…聞けない。
そして、何より。
「その装置、いつも持ち歩いているんで?」
「ええ」
出る前と出た後の胸元のサイズを、頭の中で比較しながら、女体の神秘に想いを馳せる少年達。
「…あ」ネルフェイムが思い付いた。
「その装置で、志朗(しろう)を武芸の達人化出来ねぇかな」
「…相手は柔道黒帯だし」「今夜の本番でまた投げられちゃー面倒だろ」
ちらっと持ち主の方を見たなら。
「和樹には内緒よ。知ったら絶対、阻止されるから」
密談成立。
ただ。
「ついでに、ホラー物も刷り込んじゃえ」
この呟きは、少年達の耳には届かなかった。
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