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「薬、薬ー!」
叫びながら、扉が開く音がした。
「…あ、れ、和樹の声…」
目を開けた視界一杯に涙目の女の子。
「良かった! 気がついた!」
花村(はなむら)。保健室のベッド。という事は「…また投げられたか…」気を付けていたのに。ちょっと、ブルー。
「ご、ごめんねー」
涙目が一気に洪水状態。ぼたぼたと志朗の顔にまで零れ落ちて、慌てて彼女の肩を握る。
「逃げ損ねた俺が悪いんだ、花村さんのせいじゃない」
「で、でも」ぐしぐしと泣き出してしまった。
「何、誰かいるのか?」
和樹が気付いたようだ。
「和樹ー、俺、また投げられた」
ベッドの目隠しのカーテンが開いて、和樹が顔を出す。
「またかよ、志朗。花村さんも泣く事ないから。鈍いコイツが悪い」
「鈍くて悪かったな。で、そっちは」
「ネルフェイムの名前を噛んだ、会長の治療」いい加減、どうにかしてくれないと「舌噛み切るんじゃないだろうか」
まさか、そこまではないだろう。
でも、言葉に出来ない何かを、ユテアは持っている。
「ひゃづきー、もにょるっすー」
舌足らずなユテア。今回は傷が深そうだ。
「はいはい。花村さんも行こう。志朗はもう少し寝てろ」
映画同好会副会長兼お母さん役が、花村をなだめながら連れ出してくれたなら。
「…やっぱ、殺人鬼役なんて無理だよなぁ」
投げられるのは、慣れて来ているのだが…毎回、花村に泣かれるのは、慣れない。ネルフェイムにでも代わってもらうかなぁ。あいつなら、運動神経神領域だから、投げられる事なんてないだろう。
そんな方向に決心していたら、カーテンが勢い良く開いて。
「大変だったわね!」
心配そうなリヴィが現れた。
「これでも飲んで、少し眠ったら?」
差し出された、冷たいスポーツドリンク。
「ありがとうございます」
そう言えば、ろくに水分取ってなかった。
優しく見守られながら、ゴクリゴクリと飲み干した。
あれ? あれれ?
くらりくらくら頭が回り、そのまま意識の深淵へ。
「さて、いきましょうか」
リヴィの後ろにネルフェイムとガザが現れて。
「夜7時で完了するように、設定しているから」
少年達は枕をすり替える。
「効きますかねぇ」「効いても困るけどよー」
あははー。
「結果は、夜7時に出ますからね」
ゆっくりお休みなさい。
リヴィが優しく、志朗の髪を撫で上げた。
夜7時。
悪夢が始まる。
[続く]
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