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アキ先輩と歩く帰り道は、あっという間だった。
春の夜の、少し湿った柔らかい空気が心地よくて……アキ先輩の優しい眼差しが嬉しくて。
私はアキ先輩に気付かれないぐらいの速度で、ゆっくりと歩を進めた。
先輩はそんな私の気持ちを知ってか知らずか、黙って歩調を私に合わせてくれてる。
家の前まで送ってくれた先輩は「じゃ、月曜日に」そう言って、私の手をゆっくりと離した。
「……はい。
月曜日に……」
私は、確認するように先輩の言葉をリピート。
すると、とたんに寂しさが溢れてきた。
さっきまで、あんなに掌の汗が気になってたのに。
今は。
失った掌の熱さえも……惜しい。
「メールするよ…?」
先輩の思いがけない言葉に、ほんの少し心に火が灯った気がした。
「約束ですよ?待ってますから。
それから……明日も。部活頑張って下さいねっ」
会えなくても……あたかも平気みたい、な。
私なりの、精一杯の強がり。
私は……、
アキ先輩のような、ポーカーフェイスでいられない。
だって……私。
今、絶対上手く笑えてない。
早く……月曜になればいいのに。
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