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「なんだ、ただ喧嘩しただけなの」
大根を切りながら、おサエさんが不満そうに言う。
「はい、そうですよ」
おサエさんがタンタンタン、と軽やかに大根を切る横で、ガダンガダンと大根を切るわたし。…なにが違うの。大きさも不揃いだし。この大根、わたしのことが嫌いなんじゃないの。
「あんた包丁下手ねぇ」
「うぐ」
だって料理とかしたことないし。
「包丁の持ち方はこう。で、左は猫の手」
「左は猫の手」
「指に滑らせるように包丁を入れるの」
「滑らせ…いたっ」
「誰が指に包丁入れろって言ったのよ」
血が滲む指を口にくわえて、わたしは自分の未来を案じた。
わたし、この時代でやっていけるのかな。
「おサエさんしか女中さんは居ないんですか?」
「まあ、壬生浪だしねぇ」
そっか。評判悪いんだよね。
…じゃあ、なんでおサエさんは女中やってるんだろう。
「あたしはね、雇われてた屋敷から追い出されて路頭に迷ってたところを拾われたのさ」
ということは、ポジションとしてはわたしとあまり変わらないってことか。わたしも家出して行き場がないから拾われたんだし。
「ほんと、局長さんはお人好しだよ」
切り終わった大根を鍋に入れながら、おサエさんが笑った。お人好し。確かにそうですね、と笑ったらおサエさんに小突かれた。
「ほら、包丁を動かす!…ってあんた、なんで乱切りしてんのよ!短冊切りしなさいって言ったでしょ!」
「ええええっ」
家庭科もっと真面目にしておけばよかった!
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