11th story【その男、溺愛中】

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「桜井さぁーーーん!」 反射的に「げッ、」とか言ってしまうほど耳に慣れてしまった爽やかボイス。 無駄に明るくてデカいその声の主は、尻尾を振りながら俺の元へ走り寄ってきた。 明るく染め抜いたサラサラの髪に、耳にやたらと空いたピアス。 アイドル顔で、お洒落で、スタイルも抜群。 一際目立つ容姿のせいで注目を浴びているそいつに呼び止められたせいで、俺にまで視線が降ってくる。 スーパーの中で大声で人の苗字を喚かないでほしい。迷惑にも程がある。 「桜井さん!夕飯の買い物っすか!?」 「んー、」 チャラい格好の割に、笑顔がやたらと爽やかな犬みてぇな奴。 響がいなくても黒瀬が俺んとこに飛んできたのは意外だった。 どっから俺のこと嗅ぎ付けんのこいつ? なつかれてる意味がわからん。 「あの、しつこいようですけど、一緒にモデル──」 「やらねぇよ。いい加減、諦めろって」 黒瀬の言うモデルの仕事には全く興味がない。 騒がしいのは嫌いだし。自ら好んでさらに騒がれる立場になりたいなんて断じて思わない。 ……あぁ、そういえば。 こいつを泣かすと決めていたはずなのに、あまりのウザキャラぶりにすっかり忘れてしまっていた。 夕食の買い出しなんかもはやどうでもいい。 どうせ今日は俺しか家にいないことだし。 さて……どうして泣かしてやろうか?この犬っころ。
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