ものもらい

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 ひとりが好きだった。  静かな場所が好きだった。  そんな俺の世界に、簡単に入り込んできたお前。  「かまうな」と突き放せばへらりと笑い。  「うるさい」と怒れば悪びれもなく謝る。  「どうして」と問えば傍にいたいから、と。  「きらいだ」と呟けば駄々をこねて抱きついてくる。  そんなお前が嫌いじゃなかった。  突然現れて、俺の傍にいつもいるようになって、それが当たり前のようになって。へらりと笑う笑顔はわざとなのか無意識なのか、どちらにしても優しかった。鬱陶しいと手で払っても、お前はいつも優しかった。  たとえその笑顔がどれだけ俺以外の人間に向けられていたと知っていても、俺は。 「別れたいんだけど」  珍しく苛立っていた。  つい先ほどまで誰かに愛を囁いたのだろうその掠れた声が、平然とした調子で電話越しに俺を誘うことに。  教室の一隅に佇む俺の気も知らないで、誰かを抱いたのであろう寮のベッドから俺に会いたいと言葉を添える。途端、すべてが嘘偽りのように聞こえて。  もしかするとイライラしていたのかもしれない。  でもコイツに見切りをつけたのは今日、誰もいない教室で、それは揺るぎのない事実で、だから今、決別を告げた。  唐突に切り出した別れ話。  気持ちが冷めた、飽きた、取り繕えば簡単に言葉は出るけれど、未だ電話を切らないのはコイツの了承の返事が欲しいから。  言い訳くらいはさせてやろうかと思ったから。 『はぁー? どしたの、急に。寂しいこと言うなよー』 「…もう俺の部屋くんなよ。電話も掛けて来るな」 『え、ちょ…ンだよ。機嫌悪ぃの? それとも俺、何か気に障るようなこと言った?』  どうして、気付かない。俺がとっくの昔から、お前の浮気癖に気付いていることに、何故気付かないんだ。  愛想をつかされただとか、単純に嫌われたんだとか、そんな考えに辿り着かないのか。  馬鹿みたいだ。残酷過ぎて話にならない。馬鹿を相手にするのは疲れるから、結局教えてやるしかない。  だから俺は未だ電話を切れないままでいる。 「俺って一応お前の恋人まがいなものだろ」 『……一応でも紛いでもなく正真正銘俺の恋人なんだけど』 「あ、そ。だったら恋人の特権で、お前の浮気の理由が聞けるわけだ」 『 ───、は?』  いつから気付いてたの? なんて。そんなこと、言うなよ。  
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