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「あーあ、逃がしちった」
せっかく、今まで黙ってたのに。
インターハイが終わったら、言うつもりだったのに。俺のキモチ。
今までハイタッチのたびにドキドキしてた俺の苦労はなんだったんだろう。居残り練でボール出しを請け負ってくれる後輩に浮き足立ってたウブな俺はなんだったんだろう。怪我をすると救急箱片手に真っ先に走って来てくれるあいつを見るたび、内心で舞い上がってた俺はいったいなんだったんだろう。
極めつけに。こんなに一人の男をさんざん振り回して、俺のいたいけな恋心を弄んだあげく、「自分の趣味の参考にしてました」って?
いい度胸だ。
さて、明日から、あの困った副キャプテンをどうしてくれよう。
「なーにが、次回作にご期待ください、だよ」
手に取った薄い本。男性同士が絡み合う明らかにそっち系の表紙の片方は、何度見ても自分にソックリで。
遠まわしに、フられたのかと思った。これを見たとき。あいつにとって、俺はこの本の登場人物みたいに、あいつじゃない他の誰かを好きな男でしかなくて。俺のキモチを知って、どん引きして。こんな本を部室に持ち込んだのかと。柄にもなくショックを受けて。
でも。そうじゃ、ないなら。
「ちょっとばかし、本気になんぞ、コラ」
これら薄い本を教科書に、今日から無い頭をフルに使った猛勉強を始めるとしよう。副キャプテンがいったい男の何に惹かれ、男の何にときめくのか。これほど優れた解答用紙も他にはない。
この数枚程度しか満たない紙束の集まりは、あいつにとってけっこうな弱味になるらしい。しばらく預かっておいて、ふとした瞬間ちらつかせるのも、作戦としては悪くない。
だって俺はこの本のモデル。散々好き勝手に描かれてきたんだ。文句は言わせない。
遠くから、「やめて!」という副キャプテンの悲痛な声が聞こえた気がして、悪役ばりに笑った。
キャプテンの命令は、絶対です。
だからお前は大人しく、俺の恋人になってください。
-Fin!-
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