泣世主

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   ────退屈とは時に神よりも恐ろしい。  平坦な日常に嫌気が差し、永続的な空虚にただただ喘ぎ、渇望できるナニカを探しては飽き、探しては飽き。  しかもそれが、無限と続く退屈であれば。  時間に、生に、魂に終わりを持たない存在が退屈を感じたとあれば。  さてそれを、一体何で満たそうか。  最果てまで広がる荒廃した大地。  鬱蒼とした魔の森。  黒く底無しの深い海。  禍々しく夜を染める緋い月。  そのすべてを眼下に収める漆黒の古城、鋭利に尖った塔の上に在るのは、ひとつの人影。  否。  姿カタチを限りなくヒトに似せた異質なモノが、退屈そうに羽を休めていた。 (───そろそろ、来てる頃か)  この世界に時間はない。  太陽もなければ朝も昼もない。  あるのはただ、闇色の空にぽっかりと浮かぶ、取り残された紅い月だけ。  時間という概念がない故に日々の習慣がない彼にとって、「そろそろ来てる頃」という推測に確証はない。  単なる彼の直感であり、希望的観測に近く。  しかし外したことが一度たりともないのは、それだけ彼が不変の日常に飽いているせいか、それとも。  バサリ。  闇夜そのものを思わせるような黒き翼が、ゆっくりと開く。  そして次の瞬間、彼は音ひとつたてることもなくその場から姿を消した。  
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