799人が本棚に入れています
本棚に追加
/118ページ
────退屈とは時に神よりも恐ろしい。
平坦な日常に嫌気が差し、永続的な空虚にただただ喘ぎ、渇望できるナニカを探しては飽き、探しては飽き。
しかもそれが、無限と続く退屈であれば。
時間に、生に、魂に終わりを持たない存在が退屈を感じたとあれば。
さてそれを、一体何で満たそうか。
最果てまで広がる荒廃した大地。
鬱蒼とした魔の森。
黒く底無しの深い海。
禍々しく夜を染める緋い月。
そのすべてを眼下に収める漆黒の古城、鋭利に尖った塔の上に在るのは、ひとつの人影。
否。
姿カタチを限りなくヒトに似せた異質なモノが、退屈そうに羽を休めていた。
(───そろそろ、来てる頃か)
この世界に時間はない。
太陽もなければ朝も昼もない。
あるのはただ、闇色の空にぽっかりと浮かぶ、取り残された紅い月だけ。
時間という概念がない故に日々の習慣がない彼にとって、「そろそろ来てる頃」という推測に確証はない。
単なる彼の直感であり、希望的観測に近く。
しかし外したことが一度たりともないのは、それだけ彼が不変の日常に飽いているせいか、それとも。
バサリ。
闇夜そのものを思わせるような黒き翼が、ゆっくりと開く。
そして次の瞬間、彼は音ひとつたてることもなくその場から姿を消した。
最初のコメントを投稿しよう!